【おわりに】
【百 百敷や古き軒端のしのぶにも 猶あまりある昔なりけり】
【九十九 人もをし人も恨めし 味気なく世を思ふ故に物思ふ身は】
【九十八 風そよぐならの小川の夕暮れは みそぎぞ夏のしるしなりける】
【九十七 来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに やくや藻鹽の身もこがれつつ】
【九十六 花さそふ嵐の庭の雪ならで ふりゆくものはわが身なりけり】
【九十五 おほけなくうき世の民に覆ふかな 我が立つ杣に墨染の袖】
【九十四 みよし野の山の秋風小夜更けて ふる郷さむく衣うつなり】
【九十三 世の中は常にもがもな渚漕ぐ 海士の小舟の綱でかなしも】
【九十二 わがそでは潮干に見えぬ沖の石の 人こそしらねかはく間もなし】
【九十一 きりぎりす鳴くや霜夜のさ莚に 衣片敷きひとりかも寝む】
【九十 見せばやな雄島のあまの袖だにも 濡れにぞぬれし色はかはらず】
【八十九 玉の緒よ絶えなば絶えね 長らへば忍ぶることの弱りもぞする】
【八十八 難波江の 蘆のかり寝の ひと夜ゆゑ 身を盡てや 戀わたるべき】
【八十七 村雨の露もまだひぬまきの葉に 霧たちのぼる秋の夕ぐれ】
【八十六 嘆けとて月やはものを思はする かこち顔なるわが涙かな】
【八十五 夜もすがら物思ふころは明けやらで 閨の隙さへつれなかりけり】
【八十四 永らへばまたこの頃やしのばれむ うしと見し世ぞ今は戀しき】
【八十三 世の中よ道こそなけれ思ひ入る 山の奥にも鹿ぞなくなる】
【八十二 思ひわびさても命はある物を うきにたへぬは涙なりけり】
【八十一 ほととぎすなきつる方をながむれば ただ有明の月ぞ残れる】
【八十 長からむ心もしらず黒髪の みだれて今朝はものをこそ思へ】
【七十九 秋風に棚引く雲の絶間より もれ出づる月の影のさやけさ】
【七十八 淡路島かよふ千鳥の鳴く聲に 幾夜ねざめぬすまの關守】
【七十七 瀬をはやみ岩にせかるる瀧川の われても末にあはむとぞ思ふ】
【七十六 和田の原こぎ出でて見れば久方の 雲ゐにまがふ沖津白なみ】
【七十五 契りおきしさせもが露を命にて あはれ今年の秋もいぬめり】
【七十四 憂かりける人をはつせの山おろし はげしかれとは祈らぬものを】
【七十三 高砂の尾上の櫻咲きにけり 外山の霞たたずもあらなむ】
【七十二 音に聞くたかしの濱のあだ浪は かけじや袖のぬれもこそすれ】
【七十一 夕されば門田のいなばおとづれて あしのまろやに秋風ぞふく】
【七十 淋しさに宿を立ち出でてながむれば いづこも同じ秋のゆふぐれ】
【六十九 嵐吹く三室の山のもみぢ葉は 龍田の川のにしきなりけり】
【六十八 心にもあらでうき世にながらへば 戀しかるべき夜半の月かな】
【六十七 春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなく立たむ 名こそをしけれ】
【六十六 もろともに あはれと思へ 山櫻 花より外に しる人もなし】
【六十五 恨みわび ほさぬ袖だに あるものを 戀にくちなむ 名こそをしけれ】
【六十四 朝ぼらけ宇治の川ぎりたえだえに あらはれ渡る瀬々のあじろぎ】
【六十三 今はただ思ひ絶なむとばかりを 人づてならでいふよしもがな】
【六十二 夜をこめて鳥の空音ははかるとも 世に逢坂の関はゆるさじ】
百人斬りvol62の序
【六十一 いにしへの奈良の都の八重櫻 けふ九重に匂ひぬるかな】
【六十 大江山いく野の道の遠ければ まだ文もみず天のはし立】
【五十九 安らはで寝なましものを小夜更けて かたぶくまでの月を見しかな】
【五十八 有馬山ゐなの笹原風ふけば いでそよ人を忘れやはする】
【五十七 巡りあひて見しや夫ともわかぬまに 雲がくれにし夜半の月かな】
【五十六 あらざらむ此世の外の思ひ出に 今ひとたびの逢ふ事もがな】
【五十五 瀧の音は絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れて猶聞こえけれ】
【五十四 忘れじの行末まではかたければ 今日をかぎりの命ともがな】
【五十三 なげきつつ獨りぬる夜のあくるまは いかに久しきものとかはしる】
【五十二 明けぬれば暮るるものとは知りながら 猶恨めしき朝ぼらけかな】
【五十一 かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを】
【五十 君がため惜しからざりし命さへ 長くもがなと思ひけるかな】
【四十九 御垣守衛士のたく火の夜はもえ 晝は消えつつ物をこそ思へ】
【四十八 風をいたみ岩うつ波の をのれのみくだけて物を思ふころかな】
【四十七 八重葎茂れる宿のさびしきに 人こそ見えね秋は来にけり】
【四十六 由良の門をわたる舟人かぢをたえ 身のいたづらになりぬべきかな】
【四十五 哀ともいふべきひとはおもほえで 身のいたづらになりぬべきかな】
【四十四 逢ふことの絶えてしなくはなかなかに 人をも身をも恨みざらまし】
【四十三 逢見ての後の心にくらぶれば 昔は物を思はざりけり】
【四十二 契りきなかたみに袖をしぼりつつ 末の松山波越さじとは】
【四十一 戀すてふ我が名はまだき立ちにけり 人知れずこそおもひそめしか】
【四十 忍ぶれど色に出でにけりわが恋は 物や思ふと人の問ふまで】
【三十九 浅ぢふのをのの篠原しのぶれど あまりてなどか人の戀しき】
【三十八 忘らるる身をば思はず誓ひてし 人の命の惜しくもあるかな】
【三十七 白露に風の吹きしく秋の野は つらぬきとめぬ玉ぞ散りける】
【三十六 夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを 雲のいづこに月やどるらむ】
【三十五 人はいさ心も知らず ふるさとは花ぞ昔の香ににほひける】
【三十四 誰をかも知る人にせむ高砂の 松も昔の友ならなくに】
【三十三 久方の光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ】
【三十ニ 山川に 風のかけたる 柵は 流れもあへぬ 紅葉なりけり】
【三十一 朝ぼらけ 有り明けの月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪】
【三十 有り明けの つれなく見えし 別れより 暁ばかり 憂きものはなし】
【ニ十九 心あてに をらばやをらむ 初霜の 置きまどはせる 白菊の花】
【ニ十八 山里は 冬ぞ寂しさ まさりける 目も草も かれぬと思へば】
【ニ十七 みかの原 わきて流るる いづみ川 いつみきとてか 恋しかるらむ】
【ニ十六 小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば 今一度の 行幸待たなむ】
【ニ十五 名にし負はば 逢坂山の さねかづら 人に知られで くるよしもがな】
【ニ十四 このたびは 幣もとりあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに】
【ニ十三 月見れば ちぢに物こそ 悲しけれ 我が身一つの 秋にはあらねど】
【ニ十ニ 吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 嵐といふらむ】
【ニ十一 今来むと いひしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな】
【ニ十 わびぬれば 今はた同じ 難波なる みをつくしても 逢はむとぞ思ふ】
【番外編 織りかけし 都の錦 青柳の たての糸のみ みゑわたるかな】
【十九 難波潟 短き蘆の 節の間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや】
【十八 住の江の 岸による波 よるさえや 夢の通ひ路 ひとめよくらむ】
【十七 ちはやぶる 神代も聞かず 龍田川  紅に 水くくるとは】
【十六 立ちわかれ いなばの山の 峰に生ふる まつとしきかば 今帰り来む】
【十五 君がため 春の野に出でて 若菜摘む 我が衣手に 雪は降りつつ】
【十四 陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れ初めにし 我ならなくに】
【十三 筑波嶺の 峰より落つる 男女川 恋ぞつもりて 淵となりぬる】
【十ニ 天つ風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ をとめの姿 しばしとどめむ】
【十一 わたの原 八十島かけて 漕ぎ出ぬと 人には告げよ 海人の釣り舟】
【十 これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関】
【九 花の色は うつりにけりな いたづらに 我が身世にふる ながめせしまに】
【八 我が庵は 都の辰巳 しかぞすむ 世をうぢ山と 人はいふなり】
【七 天の原 ふりさけみれば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも】
【六 かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける】
【五 奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋は悲しき】
【四 田子の浦に 打出て見れば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ】
【三 あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を 独りかも寝む】
【ニ 春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山】
【一 秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ】
【はじめに】
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