『黒木陽子の百人一首を斬る!』
(略して『陽子の百人斬り!』)

【第二十一回】

【原文】
今来むといひしばかりに 長月の
有明の月を待ち出でつるかな
[素性法師]

【読み】
(いまこんといいしばかりにながつきの
ありあけのつきをまちいでつるかな)

【通釈】
「今すぐに来ましょう。」と、あなたが言ったばかりに、九月の長いこの夜を、今か今かと待ち、(ついに)有明の月が出る夜明け方になってしまったことであるよ。

【斬り!】
さてさて。
・・・。なんかなぁ。
物足りない。
同じ三十一文字なのにな。
斬りがいがある歌と無い歌があるのは不思議ね。

作ったのがお坊さんだというのが、これまたいただけない。
男性が女性の気持ちを詠んだというのがこれまた。
恋愛の歌というのも、ちょっと。

三つが相まって私を「あほくさ・・・」モードにしている。
なんかな〜。
男性歌手が歌う、紋切り型の恋愛の歌。っぽいねん。
自称“良い「ベタ」推進委員会会長”の私としては、
ちょっとね。

♪あなたのコトバ
ココロに果てしなく・・・
私は今はるか
Slip to the Moon♪

みたいな感じやね。

いやはや。わかるんよ。そこまで言わんでも。
来るかな〜と思って待ち続ける気分も分かる。

さて。煮詰まった時は・・・。
<脳内劇場開始!>===========
1.
このまちのどこかの食卓。虫の声がかすかに聞こえている。
女はそれに気付かず、何杯目かのコーヒーを丁寧に入れている。
女は丁寧にそれらの後片付けをして、丁寧にカップをテーブルに置き、
丁寧に椅子を引いて座りちょっとコーヒーを飲む。

コーヒーカップの中を覗くと、そこに文字が浮かんでいる。

《「すぐ帰れると思う」って言うから、
帰ってくるのをず〜っと待ってて、ごはんも冷めて、
テーブルの上でうとうとしたりして、
最後らへんは意地になってて、
虫の声がいやに響いて、
気が付けば秋になってて、
とうとう空が白んで来たよ。
白い月が見えてきたよ。
いつもこうやん。秋には暇になるって言うたやん。
そんなあなたも私ももう嫌いやねん。
私は・・・》

最後の方の文字は消えて読めない。
いつの間にか虫の声は消え、烏の声がどこか遠くで聞こえている。
女カップを丁寧に洗うと、シンクの三角コーナーの生ゴミをゴミ箱に移し、
夜明けの街へゴミを捨てに行く。

鍵の音。
暗転。

2.
朝。男が誰もいない部屋へ帰ってくる。
テーブルの上に手紙。
男椅子に座る。立ち上がり、コーヒーを入れる。

<脳内劇場終了。>===========

ほほう。
お芝居にしたらけっこういいかも。
好きなベタ感。

そうか。ちょっとこの歌には背景が足りないねん。

そして、そうか・・・。反省。ごめん。素性法師。

その足りない情景を足すために格闘する余裕レベルが、
今の私、下がってるねん。
そうかそうか。

「はぁ〜?この男が三十六歌仙のうちの一人だと?認めないね、私は!」
って思っちゃったね。

そうか。
でもちょっと本番前に格闘し過ぎたね・・・。

格闘する余裕のある時でないと詠めない歌。
この歌は、そんな感じです。


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