黒木陽子「私はこんな海外ドラマを見てきた」

vol.14 これは実話である

今回の海外ドラマは、これ!



『ファーゴ』(米FX2014年)

アメリカ北部の小さな町の中年保険外交員レスターはさえない中年。妻から成功した弟と比べられたり、40手前なのに高校時代のいじめっ子に殴られたりと散々。しかし病院で謎の男マルヴォと出会ったことで色々変わっていく。
殺人事件など起こるはずのない平和な町で副署長を務める警官モリー。しかし道の途中で無人の車と、その数キロ先の森の中でパンツ一丁の男の凍死体を発見し、次々町で殺人事件が起こり出したことで色々変わっていく。
96年同名の映画から着想を得たミニシリーズドラマで、冒頭に毎度「これは実話である」って出てくる(映画もそう)。

ちょっと体力もあるし、じっくり見るドラマでも見ようかい(なんか評判もいいし)と思って見たドラマ。

そしたらば、なかなか面白かったのである。

何よりも舞台がアメリカ北部ミネソタ州。しかも季節は冬というところが素晴らしい。
陰影を多用した犯罪やらの映画ジャンルのことをフィルムノワールって言うらしいけれど、これはノワール(黒)ではなくてブラン(白。グーグルで調べました)。とにかく白い。画面が白い。とある銃撃戦のシーンなんて白くて何も見えない。
札幌の劇団、intro のイトウワカナさんと昔お話しした時に「北海道で白は黒です」って言ってたけれど、まさにこれや!言ってた!こんな感じなんや!と。

そして、雪国らしく皆さん格好が本気の冬仕様。レスターのオレンジの防寒ジャケットや変な帽子も最高。悪役も「こんなコート着るの?!」てな感じで。スーツでも履いている靴は雪仕様ブーツで暖かそうで誰もパンプスを履いていないのだった。



一般人が悪くなっていくドラマの金字塔はやはり『ブレイキング・バッド』なわけですが、『ファーゴ』はもっと狂っていて、非日常な暴力の魅力が詰まっている感じ。『ブレイキングバッド』のソウル・グッドマンを演じているオデンカークも出ていて、無能な署長役を演じているのだけれど、彼が本当に無能で、主人公の女警官に感情移入している私は「バカ!もっとモリー(女警官)の言うことを聞け!」と度々思う。しかし、最後に彼が狂った暴力に耐えられず「俺はのんびりやりたいんだ」というようなことを有能な女警官に告げるところで、「そうだよな。普通はそうだ」と暴力描写に慣れ親しんでしまった自分を思い知らされるようになっているのだった。

子どもの頃は2時間サスペンスやらバラエティやらの「旅行モノ」の存在意義が全くわからなかった。なぜ、わざわざ片平なぎさは旅行先で殺人事件に出くわすのか、なぜ船越英一郎は日本各地の崖に立つのか。しかし、今ならわかる。旅行に行きたいけどいろんな理由で行けない大人は、ああいうのを見て旅行気分を味わうのだった。(あと「今度、ああいうところに行こう」と思う)

海外ドラマを見る醍醐味の一つである「旅行気分」を味わえる一本です。ちなみに実際のファーゴという町は、本当に平和なところらしいです。
あと、ミニシリーズでシーズン1が10話で完結するので、時間の無い方にもオススメ。(ちなみにシーズン2以降は未見です)

ーー
以上です!