黒木陽子「私はこんな海外ドラマを見てきた」

vol.13 モテモテってやっぱり気分がいいな

(残念なお知らせ)ほぼ1年間にわたって彗星小学校の話と海外ドラマを並行してやって来たこの連載。
初めは「いつもやってる演劇ワークショップのノリでやったら楽に文章が書けるかな・・・」と、思ったものの、案外大変だと言うことに気がつきまして(当たり前だ)やめます。
まあ、1年続けたんだし、いいだろう。いいんです。

さて。今回の海外ドラマは、これ!



『グッドワイフ』(米CBS2009年〜2016年)

州検事の妻として郊外で良妻賢母として主婦業をしていた主人公。しかし、ある日夫に売春がらみの収賄容疑がかかり、逮捕されてしまう。しゃーないので家を手放し、13年ぶりに弁護士として復帰、友達の弁護士事務所に雇ってもらうことになるのだが、そこにはロースクール時代にいい感じになった男がいた。旦那に対する不信感は拭えないし、半年間の試用期間でライバルと競わなきゃいけないし、検事局には夫を陥れた奴もいるし、息子と娘はお年頃だし、事務所の財政はピンチ気味みたいだし、毎回ドラマチックな事案を抱えるし(ドラマだから)、主人公はもう困っちゃう!そんな話です。


初めは「『アリーmyラブ』でも見ようかい・・」と思ったのだが、なぜか見る気になれず。で、同じ弁護士もので一話完結ものだし、クリスティンバランスキー(『ビッグバンセオリー』のレナードの母。『マンマミーア』とか『シカゴ』に出てくる特徴的な顔の人)も出てるし、見やすいだろうと思いこちらを見ることに。
そしたら、ものすごく面白かったのである。以下、まだ最後まで見ていない私の感想です。

とにかく、(たぶん)40代の主人公が、自然体でちゃんと仕事をしていると、ばっさばっさといろんなものに勝っていくのだ。

同期で試用期間ライバルの若い男に、敵方の若いカマトト女弁護士に、病気を武器にするマイケルJフォックスに、妊娠や乳児を武器に審理を長引かせる女弁護士に、普通に勝つ。



「普通」と、書いたのはドラマにありがちな「主婦ならではの視点で・・・」とか「強い正義感で・・・」というのが無いからだ。普通に優秀な人間の真面目さと論理構築力、そして時にはコネも使う(真っ当な罪悪感とともに)のだった。そして、勝ったと思ったら実はちょっぴり負けていたり後味が悪かったりとバランスの良さも完璧。

何より爽快なのは浮気した夫に勝つところだ。

夫はクリスノース(『セックスアンドザシティ』のビッグ)が演じているのだが、この夫がまさに歩くダンディ。「俺、わかってる」感満載。吹き替えの声優さんもことさら「すまない・・・だが、君のことを愛しているんだ」「正義を貫きたい」そんな感じで声を当てているので吹き出しそうなほど。しかし、主人公、年食ってるだけあって、甘い言葉にゃ騙されない。けんもほろろなんである。仮釈放が決まって自宅謹慎の身になった夫に「納戸を片付けるからそこで寝てちょうだい」ってなもんだ。おまけに、いい感じの職場の上司とすれ違った日に、モヤモヤをぶつけるべく、元納戸の夫の部屋に駆け込み夫とセックスしてしまう。何も知らない夫は「心を開いてくれた!」とダンディに上機嫌だけれど、主人公は「最低なことをしてしまった・・」と自己嫌悪。ああおかしい。島耕作か。私はこのシーンを見たとき、「アメリカ、すげえな・・・」と、思ってしまった。

そして、主人公勝利ストーリーとは別に、流れているトーンが落ち着いているのも見やすい理由だ。アメリカの訴訟社会の恐ろしさ(転んだ賠償ですぐに120万ドルとか言う!ヒィ!1億2千万!)、リーマンショック後の不景気、そういうものを乗り越えるために、みんな必死で甘っちょろくない。先ほど挙げた主人公が勝っていく相手も、自分の手札全てで戦っていて、小気味好い。若いブロンド女も病気も妊娠も、意識して戦術に組み込んでいるところに「ほほー」っとなる。

また、主人公だけが年食ってるのに、モテモテというわけでは無く、共同経営者の女上司(クリスティンバランスキー)も、モテモテだ。傾きかけた事務所をなんとかするために、リストラしたり共同経営者を探したり訴訟担当したり、女性政治家支援活動に勤しんだり、そんなに忙しいのに、モテモテなのだった。

13年のブランクの後の、復帰。私にはそういう経験はないけれど、ブランクなど無くても若さや情熱、きちんとキャリアを積み上げて来た人、社会的地位の高い人に対しての負け感。40歳間近になればわかる。
なんだか、そういうのをスカッと吹き飛ばしてくれるドラマです。
法廷用語が多く、弁論でのやり取りが多いので、吹き替えでの視聴をオススメします。

(あと、どうでもいいけど、弁護士ドラマって毎回素敵なスーツ着てて「弁護士費用の半分は服飾費に回っているのでは?」と思っちゃう)