黒木陽子の「私はこんな海外ドラマを見てきた」 vol.5


海外ドラマ大好き人間!略して「海どん」が、彗星小学校のみんなにオススメの海外ドラマを押し付けていくよ!

vol.5 なぜ戦うのか

<これまでのお話>
コメディの名作『フレンズ』をみて、保護者との不倫発覚自宅謹慎からすっかり元気を取り戻した絹枝先生。なんとか彗星小学校に復帰し、一見平和な日々が戻ったかに思えた。しかし、海どんの恐怖演劇指導の足音は容赦なく近づいているのだった・・・。
ーーー

 職員室にて。
 4年生の担任の絹枝先生と博貴先生が総合の時間でとりあげる平和学習の内容について検討している。

絹枝「この指導案、いかがでしょう?」
博貴「地理の学習と関連づけにもなりますし、なかなかいいんじゃないでしょうか?」

 そこへ、なぞの手があらわれて、資料を奪い取る。

絹枝「あっ!」
海どん「ふーむ。資料館めぐり・当時の写真と今の町の写真を見比べる・・・防空壕の史跡調査・・・?ふむふむ」
博貴「海どん先生!」
海どん「絹枝先生・博貴先生、ぜひ、この平和学習、演劇でやってみませんか?!」
絹枝「えっ・・・」

 絹枝は、過去の経緯から嫌そう。
 一方、新しくこの学年を持つことになった博貴先生はそのことに気づいていない。
 海どんの案に、ノリノリである。

博貴「なるほど!!!すばらしいですね!!!当時の様子を知る人も、もうご高齢で、なかなか声を聞くことができなくなっている。そこで、資料をもとに想像力をはたらかせ、その人たちの気持ちになってみるってことですか!!これは・・・これは、なかなか深い学びになりそうですよ! 絹枝「え、ええ・・・」

 ひと月後。4年1組の教室に海どんがいる。
 今日は調べたことをもとにシナリオを作る授業だ。

松田「これが、おじいちゃんに見せてもらった昔の松田商店の写真で、こっちが今やってるコンビニを撮ってます。昔は、売るものも制限されていたり、自由に仕入れできなかったり、品物がなかったりしたそうです。今は、逆にお弁当を捨てたりしています」

 松田みんなに写真を見せる。拍手をする一同。

海どん「よし、じゃあ、松田!商店主だ」
松田「はい!」
海どん「竹林、おまえは松田商店にものを卸に来た人間をやれ」
竹林「はい!」

 他にも役が振り分けられていく。
 かなり無茶ぶりも起こるが、海どんのスパルタ演劇教育を半年間受けてきた児童たちは、けっして否定しない、俳優ソルジャーになっている。

海どん「よーい、スタート!」

松田「お客さんが、欲しがってるんですよ、品物をください」
竹林「だめだだめだ!恨むんなら、戦争を始めたやつを恨みな!」
松田「そんな!平和が欲しい!」

日本兵1「だれだ!平和なんて言葉を口にしたやつは!」
町のひと「きゃー!松田さん、非国民だったんだわ!」「松田さんです!」
日本兵2「つれていけ!」

松田「くそー!戦争なんて、戦争なんて、大嫌いだ!兵隊なんかになるやつは、大馬鹿だーっ!」

海どん「カアアアアアット!!」

 カットの声がかかり、演技をしていた2班一同ストップする。
 松田、自分の熱演が気に入った様子。得意げである。

海どん「松田、ここにこい!」
松田「はい!」
海どん「この、くそったれが!!!」
松田「・・・!」
海どん「ふん!」

 海どん、教室の扉を思いっきり開く

博貴「う、海どんさん、どこへ・・・!」
海どん「帰る!この私の半年の指導は無意味だったようだね!!」
子どもたち「そ、そんな・・・」

博貴「ちょっとまってください!いったい何が悪かったのか、それをはっきりさせずに去るなんて・・・それは・・・それってちょっと無責任なんじゃないですか?!」
海どん「・・・(長い間)。何が悪かったか?私に答えろって・・・?はん!何が悪かったか、それすらも自分たちで考えられないようじゃあ、平和学習なんざやっても無意味なんだよ!」
博貴「待って、待ってください!ヒント・・ヒントだけでも・・・・」
海どん「・・・・」

 海どん、無言でDVDボックスを置く

博貴「こ、この海外ドラマは・・・・」
海どん「この海外ドラマを見て、まだそんなぬるい芝居しかできないようなら・・・芝居なんかやめちまえ!」

 海どん、教室をあとにする。

博貴「いったい・・・いったい何が悪かったっていうんだ・・・。そして、このDVDボックスはいったい・・・」

ーーー

平和教育の劇を作っている最中に、いきなり怒り出してしまった海どん。
海どんがみんなに「考えてほしい」って置いていった海外ドラマ、いったいなんだったのかな・・?
それは・・・これ!



『バンド・オブ・ブラザーズ』だ!

時は第二次世界大戦。アメリカ参戦が決まり、ノルマンディー上陸から日本のポツダム宣言受諾までの間、ヨーロッパ戦線に参加したアメリカ合衆国の空挺部隊の面々(おもにE中隊の面々)を描いたドラマです。

全10話。それぞれメインで描かれる人は違うんですが、シリーズを通して名将ウィンターズ中尉(ドラマの終わりでは少佐に)の戦いざまを追うようになっています。

空挺部隊、というのはパラシュートで敵地に降り立って味方が攻撃しやすいようにする、という部隊です。

ちょっと考えてみてください・・・。

敵の真っ只中にふわふわパラシュートで降り立つんですよ!!
こんなん、いい敵の的!!ひいい!過酷!

その分、訓練はめちゃくちゃ厳しかったようで・・・おまけに担当の訓練教官がとても厳しく嫌なやつ※で、E中隊の訓練はさらに厳しかったのです。
おかげで、E中隊は絆を深め・・・わりと無理な攻撃命令の中、ウィンターズ中尉の名采配で戦功をあげ・・絆を深め・・ヒトラーのイーグルなんちゃらに一番で乗り込んで絆を深め・・・

「おれたちE中隊は特別さ!」
「ったく!毎度毎度、無茶な作戦はおれたちE中隊だ!」
「やったぜウィンターズ中尉!」

まあ、全体、そんな感じなんです。
こう書いてしまうと、身も蓋もないのですが・・・もちろん、それだけではなくて、精神を病んでしまう仲間がいたり、ドイツ軍の捕虜を機関銃であっさり殺したり、敵の胸ポケットの花に感傷的になったり、仲間がすぐ死んだり、雪が積もる中補給がなかなか来なくて、野外に自分で掘った穴の中で凍えて凍傷になりかけたり、せっかくドイツが降伏したのに自動車事故で死んだり・・といういやな面も描かれております。

そのバランスの良さが面白さのポイントなのです。

そして、なにより、このドラマには最後にカタルシスがあるのです。
「ああ、戦ってよかったね、大変だったけれど戦争に参加してよかったね・・・」という。
また「大変だったけど、戦争で得た仲間の絆は何事にも代えがたい・・・」という「こいつら最高だぜ!」感があるのです。

彗星小学校のみんな!
このドラマにレーティングが無いことが驚きなんだけれども、ヨーロッパの地図とにらめっこしながら、E中隊の戦跡を追ってみよう。ヨーロッパの地理にもくわしくなるし!戦略にもわくわくすると思うよ!

そして、来月も戦争ドラマを紹介します!
乞うご期待!(重いドラマすぎて、見返したくないな・・・)

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※この、担当教官の嫌なやつを『フレンズ』のロスが演じているのです!(正しくはロス役のデヴィッド・シュワイマー)だから、どうしても心底嫌な奴に見えない・・・。ロスが嫌われてるように見えて、笑ってしまう・・。
あと、『デスパレートな妻たち』のイーディの旦那さんが出てきたり、『ゴシップガール』のお父さんが出てきたり、しています。