黒木陽子の『あたらしい行事』7月編


7月17日
投票節

投票できること祝い、主権が全世界の人間の手にある喜びを噛み締める日。
午前中、人々は近くの投票所へむかい、投票箱に使わなくなった集積回路もしくはそれを模したカードを入れる。
午後は家族や親しいもの同士で集まり、投票のお祝い料理が並べられ、宴会が行われる。リンゴジュースを飲んだり、投票所を出る時に水(またはリンゴジュース)をかけあう伝統のある地域もある。

<由来>
2055年ごろからインターネットでつながれたコンピューターたちは「意志」を持ちはじめ、「人間に主権を任せていては地球が滅びる」という判断を下すようになる。そしてとうとう2062年5月に全世界は「みんなの母A(エース)」と呼ばれる謎の意志決定プログラムの支配下に置かれるようになってしまった。

「とうとう、思い描いていた暗黒未来がやってきた・・・」

と、多くの人は思ったが、特にみんなの母A(エース)は有機体を得る為に人間を培養したりはせず、逆にいままで人間では解決できなかった社会問題を解決していき、世界は今までになく平和になる。しかし、2063年6月何ものかの手によってウィルスに感染させられたみんなの母A(エース)は突然暴走を始め、人間に対しての攻撃を始める。世界中のプログラマが夜を徹してその対応に当たるが(6月のデスマーチ)結局事態を収拾するにはいたらなかった。
しかし、7月17日13:32に急速に事態は解決に向かう。新潟県燕市にて生後9ヶ月の絵流(える)ちゃんが、哺乳瓶をイヤイヤしたため、祖母はリンゴジュースをコップに注いで飲ませようとしたところ、絵流ちゃんはうまく飲む事ができず、自宅のタブレット型端末みんなの母A−padにジュースをこぼしてしまう。実はその端末こそみんなの母Aの機関部分をその瞬間になっており、なにがどうなってこうなったのか、詳しい説明は省くが、とにかく、それがきっかけでみんなの母Aは全ての機能をシャットダウンし、人々は再び主権を奪還することになった。

<その他>
みんなの母Aシャットダウン後も、「コンピューターが権力を持っていた方が世界は良かった」という人は多く、エースリアンと呼ばれる。一部のエースリアンには過激な行動をとるものもおり、人を機械の体にかえようとしたり、人工知能ロボットを人間だと偽って議会に送り込むものもいる。