劇団「中京ブラックチューズデー」の主宰・梶浦は、 次回公演の資金を借り入れるために、京都中央銀行に来ていた。 これまでは、劇団員から資金を集めていたのだが、父親に「もっと社会的な活動をせんか!」 と一喝され、初めて銀行の融資係に来たのだ。融資係では、始めは一応係長などが応対するが、 ほどなく新人の斎藤だけがデスクに残った。「それで、梶浦さん、どんな演目をされるんですか?」 よくぞ聞いてくれた、とばかりに、得意満面の梶浦は答える。「ええ、満を持して、 ブレヒトをやろうと思ってるんです」きょとんとした顔の斎藤。 「ヤーコプ・オブレヒトですか?」ここまで、 明らかにナメられている事にイライラしていた梶浦は、ついに怒った。ブレヒトを知らんヤツに、 社会人を名乗る資格はない!という論調で、ブレヒトがその後の演劇に与えた影響などを熱く語る梶浦。 一応、うんうんと頷きながら聞いていた斎藤は、全く悪気無く尋ねた。 「で、そのドイツ人の台本を今上演することに、どんな社会的意義があるんですか?」。 「儲かるんですか?」などと聞かれることは想定していた梶浦だったが、これには答えに窮してしまった。 だが、事態は激変する。窓口で女性行員とやりとりしていたサングラスの3人組が、 静かに強盗を始めていたのである。その手口は斬新であり、それが強盗と気付いたのは、 おそらく梶浦ただ一人であった。戦慄した梶浦は、斎藤に耳打ちする。 「斎藤さん、落ち着いて下さい。強盗です」 そして、その強盗団は何と、劇団「中京ブラックチューズデー」の同世代のライバルである、 「劇団人畜無害」のメンバーであった。
一般の客をパニックに陥らせることなく、いかにして強盗団を説得するか。 普段は舞台に上がらない梶浦が、演劇人の能力の全てを賭けて、事態の収束にあたるのだが…。