(10)高橋良明×首藤慎二
                                                                     7月某日 お互い、googleハングアウトにて




<高橋良明>
劇団衛星の準団員。2000年頃「劇団星衛」に入団、2003年頃まで活動し、現在休団中。 演劇人へのインタビューサイト「頭を下げれば大丈夫」(http://www.intvw.net)を運営している。



インタビュー畑の方にインタビュー


首藤:高橋君にインタビューするので、インタビュー畑の方にインタビューということで、今回はあえてチャット形式でやらさせてもらうことにしました。よろしくお願いします!(※植村注:よってもともと文字だったデータでしたが、読みやすいように少し変換や句読点なども変更したりしています。ご了承ください。)

高橋:こちらこそ、よろしくお願いします!

首藤:わ、早い!打つの早いね、タイピング。

高橋:いえいえ。

首藤:高橋君は、今までだいたい何人くらいの人をインタビューしたのですか?

高橋:ざっと420人ぐらい?でしょうか。中には掲載まで至らなかったものもあったりします。

首藤:え!!!!!すごい!!!!420!?予想の倍はいってた!えっと、チャットでインタビューしたことはあります?

高橋:チャットは初めてですね。インタビューされるのは、多分4、5回目くらいかと思います。

首藤:あ、そうなんだね。インタビューする時って、いつも念入りにその方のプロフィールを調べたり、何しゃべるかとか決めてからいくの?

高橋:うーん。ネットに載っている情報に関しては、ひと通り目を通しますが、それを全て聞くわけではなくて。逆に、その時にしか聞きたい内容が生まれない場合もありますね。事前にどう喋るか、どう聞くかとかは、実はプレゼントを選んでいる時に出てきます。(※高橋注:インタビューの最後にはプレゼントコーナーがあります。緊急インタビュー以外は原則お渡ししています。)

首藤:はー、プレゼントを選んでいる時に。なんかそれってかっこいいというか、いい時間だね。確かにプレゼント選んでる時って、その人のことを考えて思い浮かべて選ぶもんね。なるほど、深いなー。高橋君のサイトを今見てるんですけど、僕って、2006年以前にインタビューしてもらってるんですね。その節はどうもです。

高橋:いえいえ!もう10年以上経ってますね。こちらこそ、お世話になりました。

首藤:インタビューされる方の写真を、前よりも多めに撮ってギャラリーとして載せたり、短い動画をあげたり、(このサイトにも)遍歴が見れますね。そして、どんどんスタイリッシュにページにもなっていってるし。衛星の(稽古の)現場で、この役者さんどんな人だっけ?って時に、結構高橋君のサイトを見て、確認して、「あーこの人ね」となる時があるよ。

高橋:情報が古くなっていく一方なので、中々難しいですけどね。

首藤:いやでも、(僕らは)最近の若い演劇やってる人を本当に知らなくなっちゃっているから、参考にしてます。若い演劇人からベテランの方まで幅広くインタビューしているよね。インタビュー交渉って割とすんなりいくものですか?

高橋:すんなり行く場合と行かない場合があります。声を掛けるタイミングにもよるし、一度お流れになった方が良かった場合だってありましたね。当初は「相手の事を考える」という事だけ意識していたのですが、だんだんと、「この人と何をどうやったら、どんな『良さ』が生まれるだろうか」を軽く考える事が重要だと思うようになりました。これに関しては最初から完璧である必要はなくて、矛盾したり間違っていたり、抜けていたりで良いのだろうと思っています。重要なのは、進めてみて企画が進行してから、企画をもう一度見るというやり方ですね。最初にスケジュールとか段取りとか、もちろん軽く考えますが、最初は軽挙妄動で進めてしまって、その後、作業を進めながら企画を立て直すというやり方ですね。

首藤:ふむふむなるほどー。「この人と何をどうやったら、どんな『良さ』が生まれるだろうか」を軽く考える事。軽く考える事っていうのがいいですね。軽挙妄動って言葉、初めて知りました。

高橋:「軽く考える」のは難しいことですけど、言ってみれば、重い人相手だろうがどうでもいい事を考えていければいいのかな、と思っています。

首藤:なるほど。高橋君のインタビュー観がだんだんと垣間見えてきました。ずっとインタビューのことを聞いてしまったので、笑 こっからは衛星のことを聞こうかなと思います。

高橋:了解しました!


劇団衛星の準団員(休団中)


首藤:知ってる人も少ないかと思いますが、高橋君はなんと実は、現在、劇団衛星の準団員ということで。(休団中)と今はなっていますが。そもそもは「星衛(※衛星の二軍劇団)」に入ったんですよね?その頃のことを少し教えてもらえたらなと思うんですが。

高橋:そうなんです。衛星団員です。自分唯一の誇りです。ま、「頭~」のインタビューサイトは、衛星団員としてやっている訳ではないので、別にそこで公表はしていないですね。休団中ですし。

首藤:はいはい。

高橋:星衛に入ったのは根本君に誘われたから、ですね。ファックさんと同時期に入団しました。当時入っていた学生劇団から移りました。

首藤:え、そうだったんだ!それも知らなかった。根本君に誘われたのは、場所とか状況とか覚えてます?あ、そうだ、ファックさんからこの前、「首藤君のインタビューで俺のトピックが全然出てこない、名前があがらない」と鼻息荒く言われたので、ファックさんとの初対面の時の印象も、ついでに教えて下さい!

高橋:確か電話じゃなかったかな、と。その時の内容とかはさすがに覚えてないです。カフェ(※劇団衛星のミーティング)に行って、入団が決まって。それ以降、チャック(・O・ディーン)さんのもとについて、舞台の作業とかをしていました。

首藤:はへ〜、そうだったんだ。

高橋:ファックさんを初めて見たのは、アトコン(アートコンプレックス1928)でやった「アカペラ衛星」です。その時既に竹刀で炊飯器を叩いていて、笑い死にするかと思いました。同時期入団してしばらくは、体型が似ているからという理由で、勝手にライバル意識を抱いていましたね。もっともこんな事はファックさんには言えませんが。ファックさんと知り合ってからだいたい2年ぐらいして、私はオリジナルの靴のブランド「FuckJapan」を立ち上げました。あの頃は本当に周りが見えていなくて、周囲に迷惑ばかり掛けていました。でも、「FuckJapan」は最高にいかしたブランドで、私はその靴で毎日出かけていたのです。今はもう、あのブランドはありませんが、現代でも通じるカッコ良さだと思っています。

首藤:えーー!靴のブランド!?そ、そんなことやったりしてたんだ。

高橋:まあ、詳しくはインタビュー後にお教えさせて頂きますね。

首藤:ファックさんは今でも時々折りに触れ、炊飯器を叩いていますけどね。

高橋:もちろんそうですね。

首藤:ざっくり聞きますが、入団してみてどうでした?役者志望で入ったんですか?

高橋:最初は役者志望で入りましたね。蓮行さん、(田中)遊さん、橋本(裕介)さんの順で怖かったです。

首藤:笑 なるほどなるほど。その当時の皆さんはやっぱり、ものすごいエネルギーでもって活動していた訳ですよね?

高橋:あの頃は野性的な時代だったなあと思いますね。これ、掲載出来ないかもと思うんですけど、衛星のイメージ宣伝の一環で「可愛い支配者 劇団衛星」というチラシを撒いていた事があってドン引きしました。今はもうそんな事をする劇団はいないし、もの凄い叩かれるのかな?いや、そうでもないかもしれない。そう考えたら、「可愛い支配者」はいいキャッチコピーだと思います。



(※植村注:先日、たまたまこのチラシを発掘して、衛星らしくていいなーと思ってたところだったので、載せます。)


首藤:でも、どうなんだろね。今の若手の劇団の子らって、衛星のことも知らないって人もやっぱりいるし、その時代の逸話みたいなものって、エピソードがいつの間にか一人歩きしたりするもんだったりするよね。もっと無茶して目立ったり、とんでもないことして話題になったり、もちろん法に触れないというのは前提で、そういうことしても、僕は、若気の至りってことでやったらいいんじゃないって思うけどね。

高橋:そうですね。勢いは凄く大事だし、それを分析しても意味のない事かもしれないぐらい。だって、例えば40代が作った劇団が面白い芝居を量産するところをイメージしたら、その劇団は物凄い「勢い」がある訳ですから。で、私がいま「勢い」よりも興味があるのは「政治」です。現在の状況で言うと、集団の政治を考えながら動くというのは、凄く大切だなあとは思いますね。ただ、「若手」って「芸術家は政治をすべきではない」という精神じゃないと・・みたいなところありますけどね。

首藤:高橋君の、星衛での初舞台というのは、もしかして『どりーみんぐ・アイコ』になる訳ですか?

高橋:いえ、奈木野(健次)さん演出の『バンク・バン・レッスン』です。

首藤:『バンク・バン・レッスン』は、東山(青少年活動センター)でやってるんですね。

高橋:あれも凄い公演でした。面白かったです。

首藤:「原型を留めない変態演出が反響を呼んだ。と公演履歴には書いてあるのですが、そうだったんですか?

高橋:それどころじゃなかったですね。

首藤:といいますと?

高橋:事実、原型は留めていました。台本は変わっていなかったし。奈木野さんは変態でほとんど間違いないんですけど、それ以上に皆の勢いが凄かったんです。悪い意味で。あの頃は自分達の演劇が果たして何なのかよく分かっていなくて、奈木野さんに言われるままに、考えずにやっていて・・。お客さんの事を考えていなかったし、自分のセリフしか喋っていなかったような気がします。後悔はありませんが、この辺でご容赦ください。

首藤:なるほど、もしこの公演映像が残っていたら絶対観たいなと思いましたが。で、次は何の作品になりますか?

高橋:次が『どりーみんぐ・アイコ』です。

首藤:実は、中西彦助君にしたインタビューで、彼が言ってたんですが、 「黒木さんの『どりーみんぐ・アイコ』っていうのがあって、めっちゃ面白いんすけど。それに僕らも出たんす。高橋君が主役のアイコの役だったと思うんすけど」(※中西君のインタビューを参照ください。)
それで、高橋君がめちゃくちゃ面白かった、と言うとりました。この作品については、どうだったんですか?

高橋:「主役のアイコの役」ではない、筈です。アイコは、誰だったっけ・・?私は女の子役でしたが、何か、アイコのライバル役だったような気がします。違うかも?・・思い出した、アイコは紙本さんです。確実にそうです。紙本さんが主題歌を歌いながら下手から出てきて、その後ツラでおっさん臭くふんぞり返るという演技を覚えています。

首藤:あれ、そうなんだ苦笑 彦助の記憶違いでした。当時のガラスの仮面大好き黒木さんの世界が満載の芝居だったんですか?

高橋:あの時はNF(京都大学学園祭)での公演で、黒木さんの演出がとても面白かったです。紙本さんが面白かったですね。私は女装しましたね。そうだ、あの時黒木さんに謝罪しないといけない事があって。

首藤:え、どんなこと?

高橋:1.脱臼したこと。三角巾で舞台に出るという意味の分からない事になりました。

首藤:えーーーー!

高橋:2.ウソを付いたこと。脱臼したのを誤魔化すために、小道具でお気に入りの人形を抱くという出で立ちで舞台に上がっていたのですが、たしかゲネ?2ステ目?だったかな、その熊か何かの人形を舞台に忘れてしまい、終了後のミーティングで黒木さんの「何か忘れた事とかはある?」という確認に、黙ってしまっていた事。あ、『バンク・バン・レッスン』の時にも奈木野さんに謝りたいことがありますね。小道具返してない。

首藤:あーーーらま。

高橋:3.小ネタを引っ張って怒られた。少女漫画の演出で、自分で「トクン・・トクン・・」って効果音を出す、というネタが気に入って、それが回を重ねる事に長くなっていった事。(山本)ユーコさんに「長い!長い!」って本番の舞台で、結構本気で急かされた事です。

首藤:

高橋:この時は、以上の3つですね。

首藤:高橋君が謝りたい3つのこと、ありがとうございました。

高橋:黒木さんには迷惑ばかりかけています。

首藤:星衛としては、『希望の島奇譚』が最終公演になる訳ですよね。

高橋:『〜奇譚』は、めちゃ覚えてます。

首藤:この公演の事、彦助君は、めちゃくちゃ練習したと言ってたんですが、これも演者として出た訳ですよね?どうでしたか?

高橋:『〜奇譚』は、作品で言うともの凄いまとまったものだったし、今上演したらどうなるのかな、と思いますね。チャックさんがとにかく格好良かったです。私は新聞記者役をやっていた彦助の、上司のデスク役でした。そこで保田裕子さんという、当時の星衛にいた凄い団員と一緒に、犯罪者が自由に暮らしている島を探検するという役柄でした。役者として果てしなく未熟で、何をやっているんだというくらい下手で。後半のシーンは、私を含めた3人のシーンだったんですけど、台本変更という形で、私、その出番から降ろされました。あの公演の時も謝りたいことがいくつか・・。

首藤:あるのですね、懺悔が。

高橋:1.蓮行さんに。ゲネで、黒幕の裏のスイッチのパネルに、肩甲骨というか背中が当たって蛍光灯が点いた事です。その時、「はい」ってだけ返事をして、蓮行さんに「はいじゃないだろ!」って怒られて、すぐ謝った事です。あ、すぐに謝罪が出なかった点についての謝罪ですね。いや、それぐらいかも・・。また思い出したら補足させて頂きます。

首藤:分かりました。ありがとう。その公演で星衛は解散となり、高橋君は、そこからはもう演者として舞台に立つ事はなくなったのですか?

高橋:いいえ。実は道草企画という、精華大学のプロデュース公演に出てましたね。それからしばらく芝居はしていなくて、最後の舞台は『オフィス・ラブ』です。その後は、演者としてではなく、衛星の作品を観る側になっていきました。

首藤:なるほど。


高橋君から観た劇団衛星


首藤:それが2003年の話になるので、そこから約12年程、芝居ウオッチャーとして、衛星の作品は基本的には観て来たかと思われますが。好きな作品と言うか、こういうところが衛星っぽい、みたいな、高橋くん目線の事って何かあったら教えて欲しいなーと思うんですが。ごめん、雑な振り方で、笑

高橋:ちょっと時間ください、すみません。

首藤:ええ、もちろんです。すみません、ゆっくり考えて下さいー。

高橋:(長考あって)やっぱり『(劇団衛星の)コックピット・1』の、ギャグがウケる時とウケへん時の差が、悪い意味での衛星らしさを象徴していると思っています。あれは本当に不思議・・。脚本を読んでも笑えないが、実際に上演されるともの凄い面白い。が、ボタンのかけ間違えがあると受け入れられない、みたいな。衛星の作品は、客席との関係性を徹底的に間違っているんじゃないかと思っています。こんな劇団はほとんど皆無だと思う。上手で、役者の能力がとても高くて、その上で客席に「来るな!」と明言出来る。「劇場における、舞台と客席との対話」という概念が今のパフォーミングアーツのテーマになる事が多く、最近、インタビューのテーマとしては俳優と客席の実際的なコミュニケーションについてを取り上げる事が多いのですが、衛星はそれとは別次元にいる。
そういう意味ではどこまでも孤独な劇団なのかもしれません。同じ劇場にいるのに、客席とはどこまでも離れている。かと思えば、『珠光の庵』のような、客席と世界を融和する演劇も作って高め続けているし、本当に訳の分からない劇団だと思います。
時々思うのですが、衛星は政治臭のとても強い劇団なのに、京都で多分最も政治の下手な劇団なのかもしれない。個々人としては好かれているし尊敬もされていて、凄い人ばかりなのに、衛星という集団になると、京都で3番目くらいに嫌われている。それがとても魅力的なんだと思う。「衛星」という擬人化したそれのとんでもない人間臭さが、逆に愛嬌として受け入れられたらすごいなあとちょっと思いますね。
私は大学在学中に劇団を休団して、大学を卒業し、その後一般企業に就職しました。仕事の傍らインタビュアーとして演劇人に取材を重ねて行っています。この立場としても、「政治」を法人の肉体として思考する事は重要だなと思う事は多くて。言ってしまえば、衛星の政治的な性格を引き継いたのかもしれません。

首藤:なるほどなー。確かに衛星の役者として出ていて、高橋君の今おっしゃったことって理路整然と言語化されて、なるほど、そうだなーと。

高橋:うーん、表現をマイルドにすべきだったかもしれませんね。ただ、結構普段思っている事です。もちろん個人的には衛星がホームなので、完全に客観的に見れている訳ではないかもしれないですけど。

首藤:うんうん。ではでは、最後に、高橋くんから20周年を迎えた衛星へ、何かメッセージがありましたら、ぜひ。リクエストとかでも。

高橋:メッセージ・・。少々お待ちを。(再び長考あって)いつまでも、京都が誇る若手劇団としての劇団衛星であってほしいです。今の路線とは違うかもしれませんが、それでも、創作を第一にしてほしいです。
昔、カフェで橋本さんが「芸術家は政治をすべきではない」と言い、蓮行さんが「芸術家も政治をすべきだ」と話した時があって。それぞれが言っている「政治」の定義は異なっているから、そりゃ話は食い違うよなと、今では思うのですが。(※高橋注:いや、今考えたら蓮行さんと橋本さんはそのズレをお互いに認識していたに違いないな。何を演劇人の行うべき政治と定義するか、が重要じゃなくて、「政治」に時間を割くのか、それともその時点の衛星は創作と制作に注力すべきだった、という事を争点にしていたのかもしれないです。)どちらにせよ、訳分からないが凶悪なエネルギーを持つ作品を作る劇団であって欲しいです。
もちろん、その手法にこだわり過ぎて枯れていく事もあるので、出来ないとか失敗とか才能が無いとか枯れたとか、マイナスやゼロを鷹揚に許しつつ進められるようになってほしいです。多分、現代の「若手」という姿勢で創作をする集団は、そういう進め方をすべきなのかも、と思ったりするので。以上です。

首藤:ありがとうございます!!!高橋君のメッセージ、しかと拝受いたしました。
本当にありがとうございました!

高橋君のインタビュー、1000人いったらみんなでお祝いするからね。

高橋:ありがとうございます!ちなみに、600人目で「頭を下げれば大丈夫」から改称する予定です。

首藤:なんと!!?

高橋:ま、その話はまたおいおい・・・。

首藤:それってこのインタビュー記事に載っけてもいいやつ…?

高橋:あ、はい。大丈夫です。

首藤:了解!これはすぐ衛星のメンバーに伝えねば。ありがとう。